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35. 観光地としての将来性

観光地としての将来性
観光はこれから日本の中心産業になると言われています。ですが、きちんとした理念なしで観光開発が行なわれると、様々な利権が飛び交い、一時的にブームが起こったとしても、そのあとは寂れてしまうというのが実際です。実は那須でもバブルの時に投資目的で土地の売買がさかんに行なわれ、その後のバブル崩壊で放棄も同然で別荘も建たず、荒地のようになってしまった土地がたくさんあります。廃墟のような貸別荘村や、採算性のみに主眼を置いた夢のないペンションが増えすぎてしまったのもその後遺症です。利権に目の眩んだ政治家が“那須に国会を”と非実現的なことを声高に叫んでいた時期もありました。熱狂的なブームが去ったあと、那須の観光地としての灯は消えてしまうのかもと思われましたが、幸いなことに“東京から車で2時間”という立地条件の良さと、豊富な自然と温泉の魅力が、そのまま寂れていくという運命に何とか歯止めをかけました。

今後、那須が観光地として成功していくためのキーワードとして「サスティナブル・ツーリズム」(持続可能な観光)という考え方が重要になるでしょう。サスティナブルという考え方は、もともと、行き過ぎたグローバリゼーションに対抗する理論として生まれました。近年、世界的規模で、「グローバリゼーションによって世界各国が同じ発展を遂げることで小規模事業体もますますパワフルになってくる」という仮説のもと、多国籍企業が積極的な事業展開をし易い環境が整えられてきました。そして規制緩和によって買収・合併が繰り返されて大資本が生まれ、競争環境はますます寡占化されて、価格破壊が起こりました。すると何故か必然的に小規模事業体から体力の限界がきて競争についていけなくなり、結局は大資本がその競争に勝ち、価格決定権を奪ったのです。こうして、グローバリゼーションによって恩恵をこうむることができるのは、実は、西側諸国に本拠地を持つ多国籍企業だけであることが分かりました。

観光開発でも同様のことが行われました。観光地の経済発展よりも欧米企業の利潤を優先するプランが採用された結果、観光開発を行なっても重責債務から抜け出せない開発途上国があとを絶たなかったのです。そこで、欧米主導の行き詰まった観光開発とは異なる、真に観光地に利益をもたらすことができるサスティナビリティ(持続可能性)を持った新しい発想としてサスティナブル・ツーリズムという考え方が生まれました。それは、観光地の自主・多様性を認め、自然と一体となって発展することを目的とした考え方です。サスティナブル・ツーリズムとは、「観光客、関連企業、地域住民のみんなが満足することを主眼に置きながら、環境を破壊することなく、観光地の経済を持続できる観光形態」と定義できるでしょう。それは観光地に住む人々がサーバント(奴隷)ではなく、ホストとして観光客を迎えるという発想です。もちろん、商業的にも成り立つことが前提です。

言うまでもなく、観光地として成り立っていく為の最大のポイントは「いかにリピーターになってもらうか」です。最近の観光客は目が肥えてきていますから、独りよがりな商品には満足せず、より本物志向の観光地が求められています。その点那須は、約8割の観光客が2回以上訪れるリピーターであるとのアンケート調査もあり(2002,リクルート社)、その一番の魅力が温泉と自然であるとの回答から(同)、派手な設備がなくても、きちんと人々の心に語りかける本物志向の文化があれば、観光地として大いに成功する可能性があると言えるでしょう。

なお、民間企業の開発手法では一大ブームを巻き起こすことを目的としているものが多いですが、サスティナブル・ツーリズムにおいてブームは敵です。メディアを使った大々的なブームは一度起こせばそれで成功、後は野となれ山となれといった感じで、ブームのあとは揺り返しが来て、事態が深刻になるという例はバブル崩壊後、様々な場面で示されてきました。ですから、サスティナブル・ツーリズムにおいては静かにリピーターを増やしていくという手法を用いなければなりません。草の根的な活動によってさりげなく必要な情報を提供し、無理なく興味を持ってもらい、“そのうち行ってみたい”という人を少しずつ増やしていく。一見すると遠回りに見えますが、本当に那須が好きな人々のそういった損得なしの活動が、いつしか実を結ぶことを願って止みません。

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