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36. 洗濯機

洗濯機
例え別荘であっても、ある程度長期の滞在を想定するなら洗濯機は必須です。ところが洗濯機はおよそ「リゾートライフ」というイメージからは程遠い、生活感あふれるアイテムです。特にお洒落な雰囲気を大切にしたい別荘においては、その置き場所に最も困るモノではないでしょうか。実はカオリが建築をお願いしている一級建築士の円谷さんも洗濯機の存在が許せないご様子でした。普通の住宅であれば迷わず洗面台の横に洗濯機置き場を作ってそこに配置するところですが、円谷さんは最初から「扉付きの物入れの中に入れて、普段は見えないようにしておきましょう」という提案をされました。そう言われて初めて、カオリも「洗濯機って場所もとるし存在感もあるし、案外と気になるモノなんだなあ」という認識を持つことになったのです。そもそも、このように大きなモノが一家に一台、必ず設置されるという状況は、考えてみればすごいことです。今や生活必需品となった洗濯機。なにゆえにこれだけの存在感を持ったものを日本の住宅の中に設置しなければならなくなったのでしょうか?

洗濯機はモーターの回転力で洗濯槽の中の水を回したり、洗濯物をしぼったりする機械です。昔は洗濯槽と脱水槽が別々になった二槽式が主流でしたが、現在は一槽で洗濯と脱水の両方を行う自動式の脱水洗濯機が主流です。マイコンで、洗いからしぼり、水量の調節、洗濯時間などをコントロールしています。電気洗濯機の出現で、お母さま方はつらい洗濯用の板を使った重労働から開放されたと言われています。さらに1986年に雇用均等法が施行されて、その後10年間に働く女性が2400万人から2700万人に300万人も増えるという流れの中で、家事の時短を実現する全自動洗濯機の普及率が17%から49%へと飛躍的に拡大したのでした。こうして見ると、洗濯機は女性の強い味方。それなのに、家の中で存在感がありすぎて邪魔だと言うのでは悪い気もしてきました。

ところで、日本の洗濯機は円筒形の洗濯槽の軸が垂直方向にあり、上から洗濯ものを入れる渦巻き式ですが、ヨーロッパの洗濯機は、軸が水平方向を向いていて、正面から洗濯ものを入れるドラム式です。何故、ヨーロッパではドラム式の洗濯機が主流になったのでしょうか。それはヨーロッパの水の硬度が高いということに原因があります。岩盤にしみこんで何年もかけて地上に湧き出た水を利用するため、水には炭酸カルシウムなどのミネラルがたくさん溶けています。これらが含まれた水は洗剤が溶けにくく、そのため、少ない水に多めの洗剤を入れて長い時間洗濯しなければいけません。そこで、長時間洗濯しても布地を傷めにくいドラム式がヨーロッパでは主流になったのです。それに対して、日本の水は硬度が低い軟水で、洗剤がよく溶けます。それで少ない洗剤で多めの水を使い、時間を短縮できる渦巻き式が主流となったのです。また、ヨーロッパ人は肉食が中心で、菜食的な日本人とは、体から出る汚れの質が異なります。どちらかというと、日本人の汚れのほうが落ちやすく、長い時間洗濯する必要がないのです。

さてさて。そうは言ってもカオリが建築中の別荘は南欧風です。その別荘にいきなり日本式の洗濯機が置いてあったらかなりの違和感ですよね。ですから洗濯機に関してはやはりドラム式のものを新たに購入しようと思いました。しっかり洗濯ができる方式であるということは、キレイ好きのカオリには却ってピッタリです。問題は置き場所ですが、「やはり円谷さんの言われる通り、普段は扉付きの物入れの中に隠しておくしかないのかなあ?」と考えましたが若干の迷いがありました。案として挙がっていたのはキッチン横の物入れです。「ここで実際に洗濯機を回したら、音が室内に響いてかなりうるさそう。やっぱり洗面台の横に置いて洗面所の扉を閉めれば、洗濯中の音も気にならないから良いのかなあ?でも、それだと洗面台の横に洗濯機を置くことになって、生活感バリバリの日本風。うーん・・・。」なんて、あれやこれやと頭を悩ませていたのですが、その時、カオリの頭の中にヒラメキが走りました。その答えは洗濯機のことを考えながらネットサーフィンをしていたパソコン画面の中に映し出されていました。「これだわ!キラリン。」

さすがに文化が成熟しているヨーロッパ。きっとヨーロッパの人々も無骨で生活感あふれる洗濯機が置いてある風景に我慢できなかったのでしょう。何とドラム式の洗濯機をカウンターの下に収納してしまおうという製品が存在しているのです。それは“アンダーカウンター方式の全自動洗濯乾燥機”です。食器洗い機をカウンターの下に設置するのと同じ要領で、洗濯機もカウンターの下に入れてしまおうという発想です。これなら普段はまったく洗濯機の存在を意識することもありませんし、必要な時にはすぐに使用できます。生活感もなく、何よりもカオリが建築中の南欧風の別荘にピッタリの雰囲気です。問題は設置する場所ですが、幸い、カオリは洗面台をユニットではなくてタイル貼りにして作ってもらおうという予定でしたので、高さをうまく調節して天板の幅を目一杯とって広めのカウンターのようにして、その下に洗濯機を配置するということにしました。こうして、広々とした洗面台と、生活感を感じさせない洗濯機の収納という、二つの課題を同時に克服することに成功したのでした。

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