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49. ハイヒールに着物

ハイヒールに着物
「ハイヒールに着物、そんなバランス感覚がこれからの建物には求められるのではないでしょうか。色々な国の文化を混ぜ合わせたほうが魅力的です。そういったアンバランスさを格好よく着こなせるような感性が素敵なのです」
あるとき、円谷さんが突然そんなことを言われました。ハイヒールに着物?一瞬、カオリには何のことだかさっぱり分かりませんでしたが、その後の説明を聞いて納得ができました。つまり、外国人が日本の障子を壁に飾ったり、日本の着物をスーツのように着るなど、「粋なJAPAN」を取り入れて楽しむように、異文化との融合を楽しむ、そんなバランス感覚がイイのではないかということを言われていたのです。

そう指摘されて改めて考えてみると、いくら“南欧風”の建物が好きだと言っても、実際にそこに住むのは日本人です(当たり前ですが)。そうすると皮肉なことに、徹底的に“南欧風”を目指して建築された建物であればあるほど、実際に“住みこなす”ことが難しくなるという現象が生じます。“南欧風”の建物の中に日本的な生活感が入り込んだとき、その見苦しさは(特に建築家にとって)、目を覆いたくなるような瞬間となることでしょう。それを防止する為には、あくまでも基本は”南欧風”でありながら、最後のエッセンスとして、「粋なJAPAN」的な要素をどう取り入れるかというのがポイントになると思います。

カオリの場合は、本来であればテラコッタ貼りになるであろう床を、敢えて和風のタイルにしてみました。また、室内の建具には日本の障子をイメージさせるような格子模様を採用しました。そのように「洋」の中に「和」を加えるという、いわゆる“モダニズム”的な発想を取り入れることによって、日本人がごく自然に溶け込めるような空間を演出できるキッカケとなったように感じています。

「最近は60代の施主の方でも“テラコッタにして下さい”と言うんです。そして日本のどの雑誌を見てもテラコッタの特集をしている。そうなってしまうとツマラナイんです。同じようなものが蔓延し始めると人間は飽きてしまいます。だから建築士は常に次を考え、他の人がやらないようなことに挑戦し続けなければならない。ところが特に年配の方は既成概念に捕らわれてしまって、なかなか思い切った発想についていけません。だからカオリさんのような、若い人と仕事ができるのはとても嬉しいんです。新しいものに抵抗感がないから、どんどん挑戦できる。見たことがないものに対して“面白い”と思ってくれる感性がとても大切なんです」
そう円谷さんは言って下さいました。そして実際にカオリハウスの建築では、円谷さんが今まで挑戦できなかった試みがたくさん採用されたようです。結果、円谷さんいわく、「これは実験住宅ですね」とのこと。それはそれで、カオリ的には若干、気になる訳ですが、面白いこと大好き人間のカオリとしてはとても満足しています。

実は円谷さんとの打ち合わせの中で、カオリが心がけるようになったことが一つだけありました。それは円谷さんが「それは面白いですね」と反応したものを優先して選ぶようにしたことです。床のタイルにしても、建具にしても、階段の手すりにしても、キッチンの天板にしても。円谷さんとカオリの「それは面白い」が融合して出来上がる建物はきっと「とても面白い」ものになるのではないかと思ったのです。そして、結果は多分その通りになると思います。

円谷さんと夕食をご一緒したときに、ひょんなことから「円谷さんの理想の女性像はどんな女性なのですか?」という話題になったことがありました。いわく、「ハイヒールに着物に夜会巻きの女性ですね」とおっしゃっていました。うーん、円谷さんも相当に面白い!?

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