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60. 芝生?

芝生?
「これであとは芝生があれば最高ですね」
カオリハウスの庭を見ながら円谷さんがつぶやきました。
「そうですねえ。でも、芝生って管理が大変なんでしょう?」
手入れの行き届いた芝生の様子を思い浮かべながら答えるカオリ。
「はい、手入れはとても大変ですよ。夏なんか、毎日水をやらないと枯れてしまうそうです。でも、芝生があるといいなあ」
と円谷さん。どうやらあくまでもイメージ優先のようです。
「カオリ、手入れができる自信なんてありませんよ~」
と弱気になるカオリ。
その後、打ち合わせのたびに、こんなやりとりが数回も繰り返されました。どうやら円谷さんのイメージの中では“西欧風と言えば芝生だよね”というのがあって、どうしても芝生を植えたいような雰囲気です。

そこで、カオリも芝生について独自に調べてみました。芝生の種類には大きく分けて西洋芝(牧草から改良された芝)と高麗芝があるようです。高麗芝が冬に約5ヶ月間枯れて休眠状態になるのに対し、西洋芝は真夏に弱いものの、1年間を通して緑のエバーグリーンを楽しめます。そして何と芝生が本当に好きな方は、夏は綺麗な高麗芝を楽しみ、冬は西洋芝を楽しむ“オーバーシーディング”という方法で、西洋芝と高麗芝の両方を巧く両立させていることも分かりました。

確かに美しい芝生ですが、それは果たして別荘でも実現可能なのでしょうか?仮に、別荘に芝生を植えるとなると、夏の間は自動散水機を動かす必要がありますし、毎週末に別荘へ芝生の手入れをしに行くことになります。芝生の育成が趣味の方ならそれも楽しみの一つでしょうが、そうでない人にとっては苦痛です。カオリはそこまでして芝生にこだわるつもりもないのです。

では、いっそ芝生は諦めるとすると、一面の緑を実現する為には他にどんな方法が考えられるでしょうか?まず、カオリが思い浮かべたのは“苔”でした。京都の古いお寺にあるような苔庭。深い緑と涼しげな雰囲気がいかにも風流です。そこで苔について色々と調べてみましたが、詳しい資料もほとんど無く、ただ苔庭と言えるくらいの面積を埋め尽くすとなると、かなりの時間と手間がかかるらしいということだけ分かりました。それに苔を使うのでは、よく考えたら足元が滑って危なそうです。

「まさか砂利を敷く訳にもいきませんよねえ。いや、砂利は最後の手段です。砂利を敷いてしまったら取り除くのは大変な作業ですからね」
円谷さんも迷っているご様子。
「砂利を敷いて日本庭園?でも何だか雰囲気が合わないなあ」
カオリも良いアイデアがさっぱり浮かばずに、訳のわからないことを言ってみます。その後も庭については数回議題に上がるのですが、“やっぱり芝生だったら最高ですよねえ”という見果てぬ夢を描きながら議論が中断することが続きました。

そんな中、“芝生の代替品”ということで、円谷さんからご提案いただいたのが「クマザサ」でした。生命力が強くどんどん新しい芽を出し、広い範囲に生えていくため、広がり過ぎないように地中に区切りとしてブロックを埋め込んでいただきました。確かにこれなら、一面の緑という点は実現できそうですが、何となくお洒落なお庭というよりは日本古来の庭の風景になってしまうような気も(まあ、いいかー)。

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